蒼夏の螺旋 “誰が悪いのかと言えば”

 



春がそうだったように、気温の乱高下は秋にも襲い来ており。
暦の上での“冬”を迎える頃合いになってやっと、
木々の梢の色づきやら、
首元をすくめてしまう冷ややかな風やらが、
身近へ訪れたような気がする。

 『おでんは割と早いうちから食いたいなって思ったけどさ。』

あれはさ、寒くなったからってだけじゃなくってな、
ああそういう献立もあったねぇって、
新しい風味を求めての
“ああ食べたい”だったんだってと。
ワイドショーだか情報番組だかで聞いたらしい話を、
さも“どーだ、凄いこと知ってるだろう”と
大人ぶっての語るお顔が、
何とも言えず可愛らしくってしょうがない。

 「そうっすか?
  俺なんか、どうでもいい話を振られると面倒臭いばっかりで。」

そのくせ、聞き流してるのへはチェックが厳しくて。
ちゃんと聞いてないとか、
人を馬鹿にしてるとか怒り出して。
あなたは変化のある世界にいるから、
よく落ちる洗剤の話とか、
新しく出来たコンビニのお総菜コーナーの話とか、
なんて下らないことって聞こえるのかもしれないけれど。
私にはそういう変化が大事なの。
アメリカの景気の動向なんて、
あなたたちが猛烈に働けばどうにか出来る話なんでしょ?なんて、
どこまでどういう喩えなんだかも、
よく判らない言いようまでぶつけてきますしねと。
半年前に結婚したばかりで、
もうそんな感慨になってるらしい後輩が、
やれやれですよなんて肩を落としていたけれど。

 『ああ、あれですか?』

別な同僚に言わせりゃあ、

 『やたら口の立つ、利発な奥さんなのを自慢したいんですよ』

だそうで。
メロドラマのあらすじがとか、
隣近所の誰さんがどうしたこうしたなんてな、
愚痴っぽい話とかは一度も聞いたことがない。
そういうのって、可愛げないのかな、
ご町内で仲間外れにされてんじゃないのかなぁなんて、
俺にはそんな話ばっか零してますものと、
微妙にしょっぱそうに微笑って見せて。

 『大方、係長が結婚してるもんだって思ってて、
  どんな奥さんかなって探りを入れたんじゃないですか?』

こちらの彼は長い付き合いなので、
ロロノア係長さんがまだ既婚ではないことも重々承知。
ただ、いつも身奇麗にしていたり、
予定外な事態で遅くなるときは連絡を欠かさない姿を見て。
おや係長ってやっぱり妻帯者だったのかと、
そう思われてしまうことが多々あるのだ。

 “今時は、几帳面な男子社員も珍しかないのにな。”

女子なのに忙しさのあまりに掃除や整頓が間に合わず、
気がつきゃ“汚部屋”になってたという話を聞くのと同じほど。
一人暮らしだのにやたらきれい好きで、
食器洗いや洗濯にも譲れない流儀があるほどという男性だっている昨今。
このっくらいの見た目でそうと思い込むとは、

 “まだまだ甘いな♪”

なんすか、その余裕の笑みはと、
それこそ見とがめられそうな意味深さで、
ふっふと微笑った営業部の史上“最年少”係長。
学生時代は、苦虫かみつぶしたようなお顔が、
老けて見えるの恐持てだのと、こそこそ言われていたものが。
不思議なもので、社会人になってからは、
いつまでも老け込まないなと不思議がられていたりする。
きっと精神的なテンションがさほどブレないからだろうと、
ご自身も年齢不詳で通っているところの剣道の恩師から、
そんな風に言われもしたが、
一番の原因は別にあるのは明白で。

 「…………おーい、ただいま。」

鬼に笑われてもしょうがない、
来年のバレンタインデー企画を請け負った、
依頼施主様(クライアント)との打ち合わせを兼ね。
そちらの会社が展開中のクリスマスフェア、
様々なサービスがついたホテルへの宿泊プランを見学したため、
予想外に帰宅が遅くなってしまい。
会社からもその旨を知らせたものの、
自宅のある駅に着いたのは、日付も変わった最終電車で。
夜には弱いルフィなので、
きっともう寝ているかと、
いつもの“帰るコール”も掛けることなくの、
音なしの構えでそろりと帰ったところが。
一応の声掛けをして自宅へ上がったその途端、

  ぱぱぱぱっ、と

どこの舞台の照明効果班ですかと、
訊きたくなったほどの間のよさと鮮やかさ。
玄関からダイニングまでの廊下が、
一瞬にして真昼のように明るくなった。
そして、

 「…おかえり。」
 「お、おう、ただいま。」

廊下のどん突きという奥向きに。
腰に手を当て、すっくと立って、
小さな奥方が待ち構えておいで。
こんな遅くまで、
しかも連れもないままよく起きていられたもんで。
パジャマ姿じゃないところをみると、
もしかしてどこかへ出掛けていて、
帰って来てのそのまま寝ていたとか…とも思わなくなかったご亭主の、
そんな思考ごと鷲掴みにしたいかのように。
いやさ、どっかんと粉砕したいかのごとくに。
何mもあるでなしなその距離、
走り幅跳びのような勢いで一気に駆け寄って来て、
最後の一歩で頼もしい胸倉へとダイビング。
飛びついたその拍子に、小さな肩からすべり落ちたは、
この冬、いやいや秋に流行の、
ファー使いも愛らしい、サテンリボンのチョーカーで。
腕で抱きつくだけでは足りないか、
細っこい脚も回してのしがみつきようなの、
悪ふざけにしては…お顔を上げないままなのが気になって。

 「ルフィ?」
 「ゾロの馬鹿。」

 ???
 せめて間に合うように帰って来いよな。

 「何の話だ?」
 「だ〜か〜ら〜。」

何とも様子がおかしいと思ったら。
吐息が微妙に甘いところ、日頃以上に肌が熱いところ、
そして何より、
お顔がぽうと赤く染まっており、
今にも落っこちそうなほど、
しがみついていた手足に力が入ってないところから察するに。

 「…何か飲んだな。」
 「飲んだー、ゾロの誕生日だったから。」

そうは見えぬが、これでも未成年じゃあないので、
法的には問題はないけれど。

 「る〜ふぃい。」

 お前、全っ然呑めないくせにだな。
 シャンメリーだから へーきだ。
 …まだクリスマスじゃないのに売ってたんか?
 知らねぇのかゾロ、七五三用にって売ってる店があるんだよ。

せめてノンアルコールのビールとかにしといてほしかったなぁと、
思いかかって、だが はたと気がついたのが、

 「俺の、誕生日?」
 「そだぞー。去年は いちんち間違えたかんな。」

そうと言ってから、自分でけらけらけらと笑って見せて。
柔らかい頬ごと、お顔をこちらの懐ろに伏せるので。

 「…………そっか。」

しみじみとした声で応じ、
少しだけ丸くなってる背中を、大きくて乾いた手のひらが撫でる。
まるでお留守番していた幼子が、
やっと帰って来たお父さんへ飛びつきました…のようでもあったが、

 遅くなるって言ったけど、
 1分でもいい、間に合うかもしれないって。

眠かっただろうに、待っててくれた気持ちだけで嬉しいし。
そんな自分とは真逆で、
待ってたのに待ってたのにと、
やっと帰って来た肝心な相手へ、
言い放題したいのだろう、
小さな奥方の気持ちもようよう判る。

 「ごめんな。」

静かに謝れば、
ほんの鼻先という至近で
まとまりの悪い黒髪がふるふると揺すぶられ。
そんな稚(いとけな)さごと、
小さな愛しい温みを両手で抱え、
寝室までをゆっくりと歩む。

 ゾロ、係ちょーになっただろ?
 ああ。

 「それ言ったら、
  サンジが“勿体ないけど”って言いつつ
  かなり値打ちのあるワイン送ってくれててさ。」

 一緒に乾杯したかったのにな。
 今からじゃダメか?
 もうシャンメリーがねぇもん。

やっとお顔を上げたと思えば、
い〜〜〜っだと、
いい歯並びをご披露してくれる子供っぽさよ。
そのくせ、力が抜けそうな手を、
なのに離そうとはしないまま。

  なあ、これって
  “好き”って言ってる代わりって思っても良いのかな。

  …………知らねぇ。//////////

甘い甘い囁きで、暖めてくれるの待ってた奥方。
どっちがプレゼントされているやらだなと、
思わないでもなかったが。
夫婦だからそんな別なんていいんだと、
こっそりながら、くふふと微笑ってしまってる。
今年は昨年と逆に、一日遅れになりそうだけれど、
どうかおヘソは曲げないで、一緒に祝ってあげてくださいましvv



  
HAPPY BIRTHDAY! TO ZORO!!



   〜どさくさ・どっとはらい〜  10.11.13.


  *一番悪いのは、
   お誕生日に間に合わせて書けなんだ、
   もーりんです、すいません。
   昔はお部屋まで作って、
   あちこちのサイト様でDLF作品を頂き、
   一緒に飾って祝ったもんでしたのにね。
   あと少しは書けそうなので頑張るね?
   (でもでも、
    未成年でなくなった原作様の旦那は、
    はっきり言って想像が追いつかないったらvv)

  *追記
   ルフィ奥様が“いちんち間違えた”のは、
   『
オータム・エマージェンシー』で、
   正確には 一昨年のお話なんですが…まあ、あのその。
   時間の流れはあってなきがごとしなシリーズなので。
(おいおい)

***めるふぉvv ご感想はこちらvv

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